"ジャッジ"についてその一、~公平性~

1.はじめに

 公式大会やCSに必須とされている「ジャッジ」について、どうあるべきか考えてみました。私個人、ジャッジをした経験は何度かありまして、そのジャッジとしての経験を活かし議論をしていきたいと思います。

2.ジャッジの条件

 ジャッジを行うとしてどのような条件が必要かについて考えていきます。細かく挙げるとキリがないとは思いますが、まずは「公平性」があると思います。残りのどの要素も必要不可欠ではありますが、この「公平性」は時に見落としがちなものなのだと思います。次に「正確性」も挙げられるでしょう。ほとんど議論するまでもなく必須だと思います。また意外かもしれませんが「妥当な人柄」も必要だと思っています。

 初めは順に議論していくつもりだったのですが、思ったより長くなってしまったので、この記事では「公平性」という概念についての考察・議論をさせていただきます。

3.本論:公平性

 ジャッジをする上で「公平性」という概念は欠かせないものです。当然特定のプレイヤーを贔屓したジャッジングは認めるべきではありませんし、逆に特定のプレイヤーのみ警戒を強めるなどというのも公平さを欠いてしまいます。つまり、この「公平さ」は裁定判断にのみかかるものではなく、そもそもの姿勢などにもかかるものであるということになります。また、「公平性」は「一貫性」と置き換えても良いことが多いです。「一貫性」ならば、イメージがつきやすいのではないでしょうか。

 しかしどうしても「公平さ」という概念は少し抽象的なので、以下、いくつか具体例を考えていきたいと思います。長くなってしまったので、結論のみ知りたい方は読み飛ばしても結構です。

(補足:それぞれのケースについて回答をしましたがこれはあくまで「私が考える、客観的な回答」であって、絶対にそれが正しいと言う訳ではありません。スタンスなどによっても変わるかと思われますし、参考程度にお読みください。)

ケース1:「プレイヤーXのルール上間違ったプレイによってプレイヤーYが不利益を被ってしまった。状況再現は不可能ではないが1手2手程度のものではなく、相当数巻き戻さなければならない。また巻き戻すことによってお互いに利益・不利益(お互いに"本来は起こらなかったゲーム展開"中、カードを使ったこと・使わなかったことが相手に分かる)がある」

これについてのジャッジは以下のようなものが考えられます。

a.このまま続行

b.ミスの時点までカードを戻す

c.起こり得なかったプレイに際して起きたXのカード・アドバンテージを取り除き、Yの不利益を可能な限り復元する

d.Xに厳しい処分(デュエルロス、マッチロス)を与える

(ここでa~cにはお互いに警告などの処置を与える可能性もあるとします。)

 果たしてどのジャッジングが適切なのでしょうか。まず、非の度合いを考える必要があるでしょう。Xに大きい非があるのは自明ですが、即座に気付かず指摘できなかったYに非が無いとは言えないです。それらを踏まえると、まずaは有り得ないと言ってもいいのではないでしょうか。本来不可能なプレイを許してる以上Xに大きな利益があり、Yの不利益は無視されています。「やり得」が許される状態は"不健康なゲーム"を産みかねません。

 bは場合によっては採用してもいいのではないかと思います。「戻す手順の多さ」にも依りますが、不適なプレイが起こる前に戻すことには一定の合理性があります。しかし、Xにも利益があるということは注意しなければいけないでしょう。「さっき〇〇が通ったからもっと大きくプレイしてもいいだろう」と考えられる可能性もあります。"ケア""裏目"の多い現代では特に、この利益は見過ごすことはできません。できるならば他の方法を取りたいところです。

 cはこの中ではかなり妥当かと思われます。X,Yの過失の差から、Xには利益を与えず、Yには不利益を与えるとしても少量のものである必要があります。Yが受けた不利益・復元可能性にも依りますが、この辺りが落としどころなのではないかと思います。

 dのジャッジングを採りたい方もいるかと思います。ですが、Yがこれを利用し"あえてミスプレイを見逃す"事例があるかもしれません。ジャッジが利用可能であることはゲームの崩壊に繋がるので、その可能性は排除しなければいけません。またYにも過失があることに注意すると、この選択肢は自然に排除されるのではないでしょうか。

ケース2:「ケース1と状況は近いが、ランダム要素が絡んだために復元が不可能である」

これについても、結局先ほどのcのジャッジングに落ち着いてしまうと思われます。bは採れなくなってしまいましたし、他についても同様の理由によりcが妥当なところなのではないでしょうか。

ケース3:「プレイヤーXとプレイヤーYの主張が食い違っているが、どちらの言うことも正しい可能性がある」

 難しい問題ですが、起こる可能性のある事例です。これについてはXとYどちらかの言い分を採用するしかないでしょう。ここでの判断材料としては「互いがどれだけ主張を証明できるか」ということが大きくあります。どちらかの主張は多くの場合間違っている為、証明の際どうしても「整合性」が落ちがちです。また「蓋然性」も関わってくるでしょう。具体例の具体例となりますが、例えば「Xはさっきのターン攻撃したと言っているがYは否定している、それによってライフポイントの記録に差がある」といった例では、Xが攻撃しなかったのが自然かどうかを判断に含めても良いでしょう。勿論ミスジャッジが伴う危険性はありますが、例えば攻撃しないのがほぼ有り得ない状況ではXの主張を認めることとする場合もあるかと思います。

 どちらの主張を採るにしてもリスクが伴いますが、困難な事例である以上こういった裁定を下すこともあるでしょう。(ケースバイケースだとは思いますが、)もしより良い解決策があればお教えしていただきたいです。

ケース4:「プレイヤーXが、プレイヤーYのゲーム進行速度が遅いことをジャッジに伝え、Yの後ろに着いてほしいと頼んできた」

 大規模大会ならばよく起こる事例だと思います。またXからすると是非とも通したい要望でしょう。しかし、この要望は簡単に実現されていいものではないと思います。まず、Yの時間だけ計るのは問題外です。Xに無条件に依った裁定になっていますし、Yにとっては少なからず不利益です(ジャッジが着くことが不利益なのかという点については難しいところですが、Y視点でゲームに益ならぬ影響があるのは確かでしょう)。では、お互いの時間を計るのはどうでしょうか。一見この裁定は正しいように思えますし、正しい場合もあると思います。しかし、この卓のこの試合だけ時間を正確に計るということは、他の卓とのギャップ(差)を生じさせてしまいます。これは「公平」とは離れてしまいかねません。

 それでは、要望を拒否することが最良なのでしょうか。それはまた違っていると思います。このジャッジングには肝心の「Yが時間を過剰にかけている(=フェアプレイから離れている)可能性」が抜けています。プレイヤー間・卓間での公平性をどちらも重んじるのは難しいところで、どちらかは少なからず犠牲にしなければならないかもしれません。落としどころとしては、「要望は一旦拒否するが、見回りの際その卓に気を配り、実際に時間を過剰にかけているようならば警告を与える」程度のものになるのではないでしょうか・・・。これもより良い解決策がありましたらお教えしていただきたいです。

(余談:では初めから全卓ジャッジを着けて時間を計ってはどうか、と考える方もいると思います。実は私もその方法が一番最良だと思っています。ですが現実的な問題としてジャッジの人数が浮かんでくるでしょう。卓が減った後半ならばともかく、一回戦から全卓にジャッジを着けるのには相当な人数を要します。ショップ・非公認大会レベルではこれは不可能と言ってもいいのではないでしょうか。逆に、大型公認大会=選考会などではジャッジの水準をこのレベルに上げてほしいところです。)

ケース5:「見回りの際、とあるプレイヤーがルール上不可能なプレイをしていることにジャッジが気付いた」

 これもジャッジをしたことがある方なら何度か経験があるかと思われます。私も一大会につき一度や二度ほど経験があります。"ジャッジ"としてはプレイを咎めたい、という方もいるかと思いますが、そのジャッジングには「他の卓との公平性」の視点が欠けているかと思われます。「たまたま見かけた卓だけ指摘が可能だった」訳であって、(他の卓にも公平に見回りをしている状況は考えられるとは言え、)ここに他の卓とのギャップが生じます。一方では注意できたが、一方では注意できなかった卓もあったかもしれず、その差があるのは不公平でしょう。

 しかし勿論、「不可能なプレイを見逃す」というジャッジが最良かと言われればそうではありません。ケース4の余談にも書きましたが、最良なジャッジングは「初めからジャッジを全卓に着ける」だと思います。それならば、(ジャッジが見過ごしてしまう可能性を考えなければ、)公平に不可能なプレイを咎めることができるでしょう。ですがやはりジャッジの人数が問題となり、一回戦からこれを実現するのは場合によってはほとんど不可能なこともあると思います。その場合の落としどころですが、「見つける度記録しておいて、デュエル・もしくはマッチ後に指摘し警告をする」あたりでしょうか。その場合、その相手プレイヤーには"ジャッジの不干渉"の理由を説明しなければならないかもしれません。「故意に不正をしている可能性・また気付かず次も繰り返してしまう可能性」なども考えると、一度指摘し警告をするのが妥当なのではないかと思います。

4.結論 

 長くなりましたが、以上具体例をいくつか考えてみました。これらのことから、ジャッジングには「非の度合い」「主張の整合性」「蓋然性」「"どの"公平性を重視するのか」など、様々な要素が絡むことが分かります。

 ここで重要なのは、「公平」ということは「どんな状況でも両者を同程度に尊重する」訳ではないということです。「片方の非が大きい」もしくは「片方の主張がちぐはくである」などといった場合には、裁定に利のギャップがあっても良いかと思います。

「公平にジャッジをする」ということは、言葉から受ける印象より考えることが多く、相当複雑なものです。「公平の種類」などについて考える機会は無かった、という方もいるのではないでしょうか。

 それではこの段はこの辺りで失礼して、その二、~正確性と人柄~に続きます。